2年前にあったビルマの方を思い出して

ビルマ(とここでは表記します)で起こっている僧侶を中心とした人々の蜂起とそれに対する
政府・治安当局の鎮圧の様子が毎日のようにテレビで流れている。折しも開催されていた国連
安保理での話し合いも中露の利権がらみの「国際」政治のなかにビルマの一人ひとりの姿や声は
埋没してしまった。

2年前の世界難民の日(World Refugees Day)関連事業として、働いていたNGOで開催した
イベントにゲストに来ていただいたのが、日本に難民としてやってきて認定を受けたビルマ人の
ティン・ウィンさんだった。アウン・サン・スー・チーさんが書記長を務める国民民主連盟(NLD)の
幹部として活動していたが、身に危険を感じて日本に逃れてきた方だ。ビルマで今の事態になって
すぐにイメージしたのがティンさんだった。「彼はどうこの出来事を見ているだろうか?」と。

夕方、NHKのニュースを見ていると、ティンさんが在日ビルマ人の関係者たちと日本外国特派員
協会で記者会見している模様が流れていた(日本外国特派員協会での記者会見)。2年前に笑顔で
お話しした彼が険しい顔で現状に対する思いを述べ、また日本人をはじめとして世界に対して
こう呼びかけていた。「日本をはじめ国際社会が厳しい制裁措置を講じ、議長を対話のテーブルに
つかせて欲しい。我々が求めているのは、スー・チーさんや投獄された市民の解放や民主化
あって、暴力的に政権を倒したいのではない」(朝日新聞)。

他の記事では「経済制裁」というもう少し具体的な発言があったようにも書いてあるけれど
時事.com)、町村官房長官は「いま、ただちに無償資金協力をやめるという決断をしている
わけではございません」と今日の記者発表で話をしているが(産経新聞)、いわゆる西側先進国
ではもっともビルマに対する支援を行っている国としてその役割を果たすべきだとの声が
マスコミでも多い。これまで総額で6000億円超を拠出している政府開発援助(ODA)を踏まえて
の発言だ。確かに、2位のイギリスの2倍以上の額を拠出している日本が、同じアジアの一国でも
あり、その役割を担える部分もあるかもしれない。ただ一方で、少なくとも2005年に拠出された
ODAの内訳を見る限り、人材開発、保健・医療、環境という部分がほとんどでODAによる
拠出を盾に発言するというのは難しいかもしれない。ちなみに民間ベースでの経済交流というのは
どんなぐあいなんだろうか?ニュースでは60社ほどがビルマに支社や工場を持っていると
言っていたが。

アメリカは「制裁」措置にそうそうに踏み込んだ。欧州も考慮し始めた。日本も人道的支援とは
言え、ODAの停止や減額も含めて考えなければ行けないのかもしれない。ティンさんが発言した
「制裁」というのが具体的にどのようなものかはもちろんわからないが、国際社会の一員として
ビルマが存在する以上、求められるべき「規範」に対する世界的な世論の喚起とそれにともなう
国際社会の行動こそが一番の制裁なのかもしれない。

どこかのサイトに書かれていたのだが(失念してしまった)、中国・ロシア・インドという
ビルマと懇意な国とされているところ以外として、隣国タイの存在をあげているものがあった。
8割近い外貨がタイから入っているのだそうで、それはやはり天然ガスをめぐるものだという。
同じ仏教国であり、また隣国でもあり、そしてASEANの盟主でもあるタイのちょっとした
行動が一つのキーかもしれない。そういえば、タイにいるビルマ難民の僧侶が国境を越えて
ビルマに入ったという報道もあったっけ。

最後にビルマでなくなった日本人ジャーナリストの方には哀悼の意を表したい。一方で、
ロイターが報じているように「流れ弾」ではなく、故意に射殺された可能性もあるということを
念頭に日本政府はビルマ政府にきちんと話をしなければならないだろう。今日の新聞では、
在日ビルマ大使は「日本人が亡くなったかどうか把握していないがそうだったら残念だ」という
趣旨の発言をしていたが、前日に日本の在ビルマ大使館が確認をしたといっているのに、
そして自分の国のテレビでも流しているくせにこの言い分はないだろうさ。日本政府はもっと
怒ってもいいんじゃないだろうか?それともこれも「自己責任」なのかい?
(ちなみに長井さんが射殺されたのでは?という映像がロイターのサイトで報道されています。
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