珈琲で満たされる想い出のいぶし香

「これから仕事だ!」と意気込んだ矢先に携帯に入った連絡。大学時代の友人Aが休日で福岡に来ているとのこと。相変わらず突然だ。しかもこれから九州国立博物館でやっている、開館一周年記念特別展の「『海の神々』−捧げられた宝物−」を見て、夜には夜行で大阪に移動するというのだからこれまた相変わらず。とりあえず夕方、福岡市内に帰ったときに連絡をしてもらうことにして仕事へ。

夕方、Aと合流してしばしAのお土産購入に付き合う。その時に「これ、お土産」と手渡されたのが、嗚呼懐かしの珈琲豆。高松時代に足繁く繁く繁く通った珈琲店である南珈琲店(高松市南新町)の珈琲豆。Aがリュックから取りだした途端に道端に広がる苦みのある特徴的な濃い珈琲豆の匂い。ぐわっと一気に10年前(そう、もうそんなになる)へとタイムスリップしてしまう感じがした。

大学時代、授業をさぼっては入り浸っていたのが南珈琲店。お昼過ぎに起きて行くのは、大学のサークル部屋かここ。友だちと2時間も3時間も話をしたり、本を読んだりして過ごしていたのを思い出す。高松時代の一番の思い出の場所といっても過言ではない場所だ。1杯の珈琲で小説を一冊読み終える僕らを暖かく迎えてくれたのもこの店だし、友人Kの書き殴った(今思ってもすごく新鮮で衝撃的な)小説を手渡されて目を通したのもこの店だ。ブラックの珈琲を楽しむようになったのもこの店だし、そのブラックの珈琲に合うんだ!と友人Yに強く勧められてタバコを覚えたのもこの店だった。そういえば、同じく友人Iがここのバイトの女の子に心奪われて…なんて思い出もある。(この経過は、ここに書き連ねられないほどの面白さと幸せ感があるのだ。)

たぶん今僕がスタバ風のカフェがあまり好きじゃないのは、このちゃんとした珈琲を飲ませてくれるお店のお陰だ。そして珈琲とタバコと本があれば、それなりに幸せな生活を送れるのもこの店のお陰だ。今でも(すこし移転したようだけれど)このお店があることが何よりも幸せだ。

友人Aがくれた300gの珈琲豆。久しぶりに見た「おいしい珈琲のつくり方(HOME-COFEEへの誘い)」というパンフレットを、これまた久しぶりに参考にしながら「おいしい珈琲」をいれてみよう。A、ありがとう。今度来たときは、モツ鍋をご馳走するよ。

珈琲誕生(II)

あの熱帯のまぶしい/空と太陽/過ぎた時間の果てで/香り高く紅く色づく

時の長さが知りたくて/熱い珈琲をのぞく時/部屋の片すみは想い出の/いぶし香に満たされる

K.MINAMI(南珈琲店「おいしい珈琲のつくり方(HOME-COFFEEへの誘い)」より)