「すべての事象をありのままに見つめること」〜海堂尊『チーム・バチスタの栄光』

ナイスな相棒のアドイスにより『チーム・バチスタの栄光』読了。

実はこの作品、去年の春頃にゲットしていたくせに途中で読むのをやめて放っていた。買って「積ん読」している間に相棒が読んでしまい、面白かったとの感想に手にとってはいたものの…途中放棄していた小説だ。そして海堂尊の新作が次々出ては読み進める相棒にまた改めて進められて最初からページをめくったこの本。前はなんで途中で読むのをやめてしまったんだろうなぁ…という具合にグイグイ読み進めてしまった。うん、面白い。

すでにご存じの方も多いだろうが、この本、2006年の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作だ。最終選考委員が全員一致であっという間に受賞が決まったというこの作品。Amazonにも掲載されている「BOOK」データベースにより内容紹介。

東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器制御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称“チーム・バチスタ”として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死と、メディアの注目を集める手術が重なる事態に危機感を抱いた病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼しようと動いていた。壊滅寸前の大学病院の現状。医療現場の危機的状況。そしてチーム・バチスタ・メンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。遺体は何を語るのか…。栄光のチーム・バチスタの裏側に隠されたもう一つの顔とは。

バチスタ手術とは、これまた上記ページによるとこんなものだ。

バチスタ手術は、学術的な正式名称を「左心室縮小形成術」という。一般的には、正式名称より創始者R・バチスタ博士の名を冠した俗称の方が通りがよい。拡張型心筋症に対する手術術式である。肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術。

こんな難しいものを題材に、そして実際に難しい専門用語が並ぶにもかかわらず、ぐっと読者を引きつけて離さない。いや、正直前半の田口が行う内部調査の辺りでは少し物語が春の日の湖の水表のごとく穏やかに流れていて、物足りない部分があるが、後半登場する「厚生労働省の変人役人」白鳥により一気に話がスピーディーに、展開していくことになる。相棒は、「この作者はスロースターターだ」と評していたが確かにそう。反面、これが最初から続くとすこし鬱陶しいかもしれない。田口を中心とした穏やかだが丁寧な物語の積み重ねが後半の躍動を生み、静と動の2人の主人公によってこの300ページを超える物語を読ませるのだ。

そして後半の読中、そして読後はとりわけイメージするのが奥田英朗の『イン・ザ・プール』以降の「トンデモ精神科医」伊良部と白鳥の類似だろう。まぁたぶん多くのブログでこんな感想が書かれているんだろう。でも間違いない。よくあるキャラクター設定ながら、やっぱりこれがカッチリはまると小説の読後感は限りなく気持ちいい。もしかしたら小泉前首相が「変人」/「トンデモ」総理大臣だったにも関わらず、国民受けがよかったのは、これらの小説のキャラのようなある種の爽快感からかもしれない…とか思いつつも、エンターテイメント小説として久しぶりに堪能した。

そうそう、変人・白鳥がこのエントリーのタイトル同様、田口にこんな台詞を吐いていた。

「もっと自分の頭で考えなよ。先入観を取り除いてさ」

今のこの国のゴタゴタを前に「何か」に引っ張られるかのように思考停止しているようにも思える僕たちにピッタリな言葉だ。北朝鮮しかり、防衛省しかり。わはは、変人に言われてるけどね(笑)。