踊るダイヤモンド〜『ダイヤモンドはほんとうに美しいのか?』

ダイヤモンドはほんとうに美しいのか? (シリーズ・モノから見える世界の現実)

ダイヤモンドはほんとうに美しいのか? (シリーズ・モノから見える世界の現実)

 ダイヤモンドは永遠の輝き。このキャッチコピーが第二次世界大戦前に作られたなんていうのは驚きだ。どこから来たのかさっぱりわからない刷り込まれた記憶というのは恐ろしいもので、ダイヤモンドなんて縁もゆかりもない僕のような人間にすら、生まれたときからインプットされているかのようにこの言葉がある。

 ダイヤモンド大手デビアス社が作ったダイヤモンドを飾る言葉はこれだけではない。「過去・現在・未来」という3連のダイヤモンドの指輪である「トリロジー・シリーズ」も頭になぜかこびりついている。さらには1960年以前にはダイヤモンドを婚約指輪として、給料3ヶ月分だと贈るなんて習慣はなく、デビアス社の戦略で当時はダイヤモンド自体が輸入禁止の状態にあった日本でいつの間にやら「常識」といわんばかりに今や根づいている現実は自分の無知は棚においても驚くしかない。

 この本は、ダイヤモンドを巡る世界の人々の狂乱状態の成立を歴史的経緯をふまえて薄い書籍ながらも紹介し、その上でアフリカのダイヤモンド原産地で起こる「紛争(コンフリクト)ダイヤモンド」「ブラッドダイヤモンド」に象徴的な社会に混乱をもたらし、紛争をも引き起こす現状について冷静にまとめている。さらには、キンバリー・プロセスというダイヤモンドの不正取引を規制する認証制度に至る経緯とその内容を紹介しているのだが、同時にダイヤモンドを販売する人間にとって見れば、それはあまり知られていない現実も露わになる。本書の解説を書いているアムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠事務局長は日本の現状についてまとめている。

 映画『プラッド・ダイヤモンド』の日本公開(2007年)と合わせてアムネスティ・インターナショナル日本がおこなった店頭調査では、キンバリー・プロセスについて知っていた販売員が23%、さらに自分たちが販売しているダイヤモンドが認証されているか確認していると回答した販売員は11%に過ぎませんでした。おなじくアムネスティが英国で2004年におこなった調査では、キンバリー・プロセスの認証を確認している店が45%に上がっていますから、日本の店頭での認識はかなり低いといわざるを得ないでしょう。(p.117)

 販売する側がそうだとすると、購入する側ももちろん知っているはずはない。「紛争ダイヤモンド」や「ブラッド・ダイヤモンド」に問題意識があれば、第一購入自体をためらうであろうし、知らなければついぞ塗装した意識は現れまい。

 では、そうしたダイヤモンドを購入しないために、「コンフリクト・フリー・ダイヤモンド」を購入するためにはどうしたらよいか? NGOであるグローバル・ウィットネスが勧める、以下のような質問をしてみては?と書く(p.83)。

  • この店の宝石類が「紛争ダイヤモンド」ではないという保証は得られるのでしょうか?
  • この店で売られているダイヤモンドは産出国を特定できますか?
  • 「紛争ダイヤモンド」に関する社内規定があれば見せてもらえますか?
  • ダイヤモンドを納入した業者による証明書を見せてもらえますか?

 婚約指輪として贈ろうとするダイヤモンドを購入する際、こんな無粋なことはできないよ!という気持ちはわかる。ただそうした気持ちが見過ごす闇が「紛争を起こし、血を流す」世界を醸成しているのも事実である。ならば、婚約したカップルの幸せさを壊さぬように、そうしたお店のリストを作成するという活動をするというのもありでは?

 ちょっと待て。ダイヤモンドを婚約の際に贈るという習慣ですら、ほんの50年前には日本にはなかった。「ダイヤモンドは永遠の輝き」というフレーズといい、マーケティングによって刷り込まれたものだ。華麗で優雅な「ダイヤモンド」に手を引かれて一緒に踊っているつもりだったが、踊っていたのはデビアス社であり、さらにその舞台を作っていたのは人の汗であり涙であり血であったというのは何とも不幸な婚約指輪だ。

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