メコン河支流のダム開発の抱える問題とは?

 昨日に引き続き天神に出陣。今日はカンボジアを支援する福岡のNGO(特活)明日のカンボジアを考える会(F-ACT)」主催の講演会「水の声〜メコン河のダム開発と脅かされるカンボジア北東部の人びとの暮らし〜」に参加した。もう2年もカンボジアに足を運んでいないのでカンボジア心を少し揺さぶられて。

 講師は、カンボジアの現地NGO「3S保全ネットワーク(3S Rivers Protection Network:3SPN)」のキム・サンハーさん。カンボジア北東部のラオスとの国境近く、ラタナキリ州・ストゥントレン州・モンドルキリ州に流れ、東南アジアの大河メコンの支流でもある、3つの川、セサン川・セコン川・スレポック川(以上3河川の頭文字をとって「3S」との団体名表記。以下、3S地域と表記)の上流に建設されたダムによる問題点を指摘し、取り組んでいる様子についての話であった。

 開発が引き起こす問題点というのは、依然として続いており、それらは多くのNGOや住民組織から指摘されつつも、なかなか改善は見られない。もちろん、ダム建設すべてが悪いわけではなく、その利点が明確で住民にとって役に立つものであったり、例え問題点があろうともそれへの取り組みがなされていればこうして取り上げられることもない。しかし、この3S地域も結果的に住民への十分は情報提供はなく、それでも被害がなければともかくも洪水被害や干害(正反対のことを書いているがどちらもダム建設によって起こるものである)、また川の水質悪化、それによる人体への被害、加えて漁業を生業としているものにとっては仕事自体がなくなるという問題がある。さらには強制移住の問題もやはり存在する。こうした問題にひとつひとつ住民とともに現地に関わるというのはとても大切なことだし、そこから声をあげていき、それを世界の人たちにも届けることは必要な活動である。

 さらに現在のこうした被害は河川という国境を越えて流れるものである以上、自国内の身にて起こる問題ではない。国境を越える環境問題、また社会問題は問題をことさら複雑にする。とりわけこの3つの河川はそれぞれ、セコン川はラオスと、セサン川とスレポック川はベトナムを上流とする。現時点で建設・稼働することで問題となっているダムはいずれもラオスベトナムにあり、下流であるカンボジアの3S地域の人たちにはなすすべがない。もちろん、メコン河委員会(MRC)のような政府間機関も存在するが、国力の違いがそのまま「政策」に影響し、解決策を見いだせない現状にある。

 加えて、現在ではカンボジア国内でも、この3つの川にダムの建設が計画されているという。メコン河本流に計画されている巨大ダムとあわせて、ダム建設というインフラ整備もまた自らの問題になりつつある。ちなみに、3つの川に計画されているいくつかのダムは、先日統合されたJICAが水力開発マスタープランのもとで調査を行っているそうだ(調査自体は、民間の日本工営が行っている)。つまり、これは3S地域、カンボジアに問題ではなく、日本の私たちの税金で活動しているJICAを通して僕たちの関わりも出てくることを認識する必要がある。

 質疑応答で学生がこんな質問をしていた。「ダム建設の問題点はよく分かったが、建設によって良い面もあるのではないか」と。もちろんすべてが問題点だらけでは建設されることもあるまい。というよりも、問題点があり、それが放置されたままの状態にあること自体が問題であり、その話をしているのだ。「あなたたちは批判してばっかりだけど」というのが言外に見えるとはいえ、気持ちはよく分かる。ただ、現時点では以下に良い面がたくさんあろうとも、多くの人が命の危機に瀕しており、また強制移住により生活を奪われ、また仕事を奪われている人が存在することそのものが問題なのだ。良い面を聞くことで悪い面と比較考慮しながら、問題を考えていこうとしているのかもしれない。ただ、良い面があるからと行って、現在起こっている問題がそのままでいいという理由なんてないのだ。サンハーさんが「とてもいい質問だね」と非常に紳士的に「例え良い面があろうとも解決せねばならないことがある」と人なつっこい笑顔で丁寧に話をしてくれたことを、学生は「おー、いい質問したな」と額面通り受け取っていなければいいが。

 本当にサンハーさんは、カンボジア人にしてはとても背が高く大柄で、朗らかでにこやか、そしてとてもフレンドリーないい人だった。行くつもりはなかったのに、通訳をされた方と話があって、少しだけ顔を出した打ち上げで、「ジャパニーズ・ワイン」と冷酒を美味しそうに飲んでいる姿を見て、3SPNもきっと素敵な団体なんだろうなぁと思った。カンボジア北東部を訪ねる機会なんてなかなかなさそうだけど、彼らが活躍する現場に行ってみたいな。キム・サンハーさん、また主催のF-ACTの皆さん、ありがとうございました。

 そうそう。このメコン河支流の3S地域のダム開発を巡る問題点については、日本の政策提言NGO(特活)メコンウォッチ」のウェブサイトなどで現状を知ることができる(こちらのページベトナムラオスのダムの項目を参照)。また、この問題についてまとめた『水の声:ダムが脅かす村びとのいのちと暮らし』という冊子があり、こちらからダウンロードできる。とても良いできばえなので是非ダウンロードしてご覧頂きたい。

メコン河開発―21世紀の開発援助

メコン河開発―21世紀の開発援助