義を見てせざるは勇なきなり〜『天地人』
とある理由で直江兼続という戦国時代の人物が気になってしまって火坂雅志の『天地人〈上〉』と『天地人〈下〉』を読みました。…いや「とある理由」といっても別に大した理由じゃないんですが、単に漫画の『花の慶次』を読んでいて気になったんですね。ちょうど来年の大河ドラマにもなるという情報も頭の中で相まって、「読んでみるかぁ」となったわけです。
- 作者: 火坂雅志
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この直江兼続については、ググってみたり、wikiってみれば情報はたくさんあるので見ていただければいいんですが、文化教養人であるとともに、景勝の名参謀として名を馳せる人物。上杉家という家柄がいわゆる「義」に基づく生き方をしているわけですが、その教えのなかで彼が「義」などというものが通用しないともいえる戦国時代にこれに基づき、また正々堂々、威風堂々たる生き方をしているというのが、おそらくNHKの大河ドラマで取り上げられるのであり、さらに好感を持たれる原因なんでしょう。
この戦国時代=力の時代たるときを、グローバル化が進み豊かな者がより豊かに、貧しき者はさらに貧しくという現代社会に安易に重ねられるのも容易にイメージできます。そしてある部分ではそれは的をえているのでしょう。そんな時代にありながら、「義」を掲げ生き抜こうとする(これは単に命としての生だけではないのですが)上杉家、さらにはその骨格を担った直江の生き様が琴線に触れる部分があるのだろうと思います。経済成長著しい60〜70年代にはまったく大河ドラマになんぞ取り上げられないところでしょうね。
さらにその直江の甲冑がイカしているわけです。それがこれ。
「愛」という字を兜に掲げる戦国武将の生き様。ハタと膝を打ち、大河ドラマが始まるとともにテレビの前に座るお父さん方の姿が目に浮かぶというものです(笑)。もちろん、「仁愛」そして「義」を生き様として掲げる直江兼続の生き様がすべてにおいて素晴らしかったはずはないでしょう。しかし、アルバイトやパートという弱者につけ込み莫大な利益を上げる大企業やそれを支援する社会の仕組みに「むむっ」と反応する人たちを前に、NHKが彼を取り上げて「いや、敗者にも生き様はあるよ」とするのはちょっとばかりやりすぎの感もありますがね…。
この「愛」の兜にロマンを感じ、傾倒するだけでなく、そのなかでの直江のひとつの生き方としての「義を見てせざるは勇なきなり」という姿を僕たちはもっと見ていきたい。それは「弱者」「敗者」としての生き様ではなくて、人間そのものとしての生き方だろうと思うからです。とはいえ、「その結果、弱者や敗者であってもいい」とは言ってはいけないのですが。
ちなみにこの『天地人』は、amazonのレビューを見るとかなりひどいようですね。まぁ、直江本初めての僕としてはそれなりに楽しめました。