強さと弱さ〜田中森一『反転〜闇社会の守護神と呼ばれて』

お昼前に起きてどこに行くでもなく家で多少の片付けとか、家事的なものをしていると、
外から選挙カーの名前連呼が聞こえてくる。蒸し暑いこの季節に窓を閉め切るわけにもいかず、
拷問のように馬鹿のひとつ覚えのようなスピーカーからの声を聴かされていると、「絶対こいつには
投票しないぜー」と子どものような意固地な気分になる。それでいつも「選挙カーに出会わなかった
候補者に入れよう」と思うのだけど、結局全員どこかで目に耳にすることになるわけで(笑)。

赤城"絆創膏"農相のように、もはや漫画のキャラのような政治家…政治屋?が増えている昨今、
よくマスコミで見る言葉、「最近の政治家は小兵だ」というのはなんとなく頷くところがある。
別に検証するような関係性なんぞ持っていないので、「雰囲気」「なんとなく」であるわけだけど、
いわゆる「55年体制」だとか「バブル」なるものが崩壊したころぐらいから、日本全体で良くも悪くも
小粒な人たちばかりのようなイメージだ。逆をいえば、僕たちひとりひとりが何らかの「力」を持つ
大切なときだと思うのだけど、日本はそうしたひとりひとりの「力」よりも改めて「でかい力」を
求めているようにも思う。お昼にテレビでやってたたかじんの番組にでていたさかもと未明は、
いつの間にやらプチ保守おばさんになってて笑ったけれど、彼女とかが修身とか道徳とかの復活
に教育改革あり!というお馬鹿な発言をしていて、ありゃありゃと思ったものだ。

そんなある種の懐古主義的な「権力」のあり方という視点からも面白かったのが、ヤメ検で、
「裏」世界の弁護人と言われる田中森一氏の『反転―闇社会の守護神と呼ばれて』だ。
上のさかもとのつまんなさにテレビを消して読み始めて一気読みしてしまった。

反転―闇社会の守護神と呼ばれて
田中 森一
幻冬舎 (2007/06)
売り上げランキング: 15

400ページを超える田中氏の自叙伝のこの本には、貧しかった子ども時代から大学在学中の司法試験
突破、特捜のエース検事を経て、バブル期まっただ中の大阪を中心とした闇世界での弁護士活動、
そして2000年に詐欺事件で逮捕されるまでの歴史がぎっしりと書き連ねてある。とりわけ検事→
弁護士の時期のある方向から見た日本社会の『姿』が明確に語られている。そして、ここには、
数多くの政治家や財界人、暴力団まで人間の「闇」の部分が人間くさい言葉で連ねてあり、その
あまりに具体的な名前や出来事に「ここまで書いて大丈夫なのか?」とつまらぬ心配をしてしまう
くらいだ。

鈴木宗男事件」で背任と偽計業務妨害の容疑により逮捕された佐藤優の『国家の罠』で
有名になり、ライブドア村上ファンドと続く事件のなかで流行り言葉のようになった「国策捜査
に関する新たな書としても読めるこの一冊。実際、田中氏は本書のなかで、検事としての経験も
含めてそうした実態が間違いなくあると書いている。もはや僕たちは政治家はもちろんとしても、
警察や検事、裁判官ですら、その「職」を表す言葉が「正義」であることはないことは知っている
けれど、改めてこう突きつけられると暗澹とする部分があるのも事実だ。そういえば、これに
「教師」というものも加わるのかもしれない(情涙)。

ただ、この大著を読み進めると最後の最後に「それでも人間だがゆえに…」という「弱さ」を感じる
ところがたくさんある。そしてその人間の「弱さ」こそが「強さ」であるという矛盾した、うまく
説明できない言葉を噛みしめることになるのだ。それは聖人君子であろうと、アウトローであろうと
変わりない「強さ」と「弱さ」が絡み合った人間の「らしさ」であり、だがゆえに単に善悪で
割り切ること、善し悪しで割り切ることの難しさを感じることになるのだ。

てなことを思っていると総理大臣の総裁が「改革か逆行か」などとデジタル思考で結果的に
思考停止に陥ろうとしている。危ない危ない。だから最近やつは人間らしくないんだよな。