財政を民主主義の手に〜神野直彦『財政のしくみがわかる本』

参議院選を前にして政治家ではなく政治屋の姿が跳梁跋扈している昨今。
民主党を牽制して安倍お坊ちゃんは「消費税(率)を上げないとは一言も言っていない」などと
言ったかと思えば(読売新聞)、今日は今日で「強い経済成長によって税収を増やすことは可能だ。
消費税を上げなくて済む可能性はある」とかいってるらしい(朝日新聞)。
国民を戸惑わせるのはそろそろいい加減にして欲しいものだけれど。

年金問題にしても、消費税の問題にしてもおおきく関係してくるこの国の財政問題。
キンキンがバックイン・ジャーナルで「政府が年度内までに年金問題の照合を終えるだとか、
第三者委員会で救済するだとか国会の外で議論もなく流布する情報に国民はどこか安心を
覚えるところがある」というニュアンスの発言をしていたけれど、確かに僕も含めて、
年金をどーするかだとか、何百兆円という財政赤字だとかいうことに「得意ではない」。
けど、間違いなく関係しているこの問題になんとか投票する基準くらいは知っておきたい。
で、神野直彦さんの『財政のしくみがわかる本』だ。

財政のしくみがわかる本
神野 直彦
岩波書店 (2007/06)
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岩波ジュニア新書だからといって侮るなかれ。ジュニアというのが何を指すのかわからないけれど、
もはや日本総じてジュニア化している昨今では、日本の市民全体を対象としているに違いない。
あまり「必読」とばかり使うと信頼性がなくなるけれど、これはホントに「必読」の書。
特に「最近の政治には腹立つけど、でもやっぱり財政とか難しくてさぁ〜」という人にこそ、
一読を薦めます。その意味で、ジュニアで出してくれて良かった!という一冊。
僕はこの本、かなりのドッグイヤーがあって少しばかりふくれあがってます。
別に財政なんて研究対象でもないのに(笑)。

日本の財政に今起こっている問題は「金儲けをしてもいい領域と金儲けをしてはいけない
領域との区分がわからなくなっていることです。すべてを市場原理でやらせるようになって、
そしてこの切り分けができていないために、社会的な混乱が起きているのです」と
神野さんはいいます(p.17)。

また、僕たちの持つニーズ(基本的必要)とウォンツ(欲望)にのっとって財政を考えなければ
ならない。つまり「私たちはまず、自分たちの社会のなかで、自分たちの生活を考えて、これは
ニーズなのか、それともウォンツなのかを決めることが必要です。それがニーズだったら財政で
満たされなければならないし、ニーズとウォンツとの中間形態だと思えば、公的な企業をつくっ
て料金収入でまかなうのが原則です」。(pp.122-123)

郵政民営化に代表的に、もうすでに「小さすぎる政府」である日本政府はさらに役割を限定的に、
小さくしようと民営化を進めます。国民にとって望ましい…とサービスや無駄遣いを指摘しての
民営化も実は政府が…いや政治屋さんたちが思っている思惑はどうも違うところにあるようです。
また消費税など税体系も行き当たりばったりである様子が、この本から見て取れます。
だいたい、ちゃんと議論もなされないまま税を取られ、それが無駄遣いされている。それにも
関わらずさらに消費税を…という姿勢は何よりも怒るべきところなわけで。

神野さんは現在の状況をこう捉えています。

 安倍政権の「美しい国」というのも、日本の伝統的な家族や伝統的な地域社会の復活をいい、しかも伝統的な家族や伝統的なコミュニティが無理な場合には、さいごには伝統的な国家、つまり強い防衛力とか強い秩序維持政策が出ていくという主張になってくるはずです。

 そうした伝統主義と市場主義の組み合わせは、市場が小さかったときには伝統的な家族やコミュニティの機能が大きく残っているので、小さな政府でも大きな共同体、伝統的な共同体が残っているので機能します。しかし、現在のように、労働市場にみんなが働きにくいという時代になってくると、共同体は小さくなり、家族の機能は小さくなってしまいます。そこを伝統主義にゆだねようとすると、結局のところ、伝統としての国家の暴力機構、強制力を強化する道しかなくなって、産業構造を大きく知識社会の方向に転換していくことすらも不可能にしかねないことになります。(pp.188-189)

じゃあ、どうするか?もう一つと道として続いてこう書きます。

伝統的な家族や伝統的なコミュニティの機能を復活させるということは無理な産業構造にあるので、それを政府がサービスとして提供していくしかないと思います。(p.189)

僕が興味を持っている水道事業などにも典型的に「赤字だから民営化(民間委託)」という
恐ろしいほど安直な方向に流れる昨今、神野さんの、財政というのは「社会全体を結びつけて
いる接着剤のようなもの」(p.186)で、私たちが持つ3つの顔、「ひとつは生活の「場」で
生きている顔、もう一つは生産の「場」で働いている顔、三つめは政治に参加してる顔」(p.194)
をひとつにまとめるものだという言葉をかみしめます。

そして、最も重要なことは「財政を民主主義の手にゆだねるということ」、つまり「国民が
意思決定に参加できる公共の空間を、できるだけ多く、分断して作っておくということ」だと
言います。(p.194)

選挙を目前に「投票」という当たり前の行為とともに、この本を一冊是非読んで、
年金、消費税、はたまた税金から出された政治屋へのお金の使われ方について、
ちょっと考える時間を持ちたいものです。