ポジティヴに楽観的に夢を持って〜梅田望夫・茂木健一郎『フューチャリスト宣言』

 ウェブ世界を僕はとても肯定的かつポジティヴに見ています。昨日の毎日新聞の記事に小中学生のネット依存者がふえているというものがありましたが、漫画にしろ、ゲームにしろ、テレビにしろ、公園にしろ、学校にしろいろいろと問題がないものなんて存在しないわけですから、昨今の『流行りモノ』でありかつ『わからないモノ』とされているウェブという存在を否定的かつネガティヴに見る視点があるのは仕方がないわけです。必要な施策は採る必要があるとしても、このウェブの登場とその広がりにある種の可能性を思い描いているからこそ、こうして独自ドメインをとったりするわけです(笑)。

 そのウェブ世界を生み出し、拡大させたシリコンバレーを「きわめてプラクティカルなスピリット」であり「前向き」であり、それでいて「ルーツは、フロンティア精神、テクノロジー思考、反権威、反中央、反体制、それからヒッピー文化、カウンター・カルチャーというか、そのへんの組み合わせ」と説明する梅田望夫さん(p.35)。彼と茂木健一郎さんとの対談本が『フューチャリスト宣言』です。ここには限りなきウェブ世界を通じた「未来=フューチャー」について話されています。

フューチャリスト宣言
梅田 望夫 茂木 健一郎
筑摩書房 (2007/05/08)
売り上げランキング: 455
おすすめ度の平均: 3.5
4 インターネットの今後!?
4 読む前に想像した通りの内容です
3 思わず苦笑いしました

 僕はもう10年近く、NPO/NGOの世界に関わっていますが、その入り口はウェブでした。20世紀が終わろうとしているころ、友人・知人と立ち上げたのが、福岡のNPO/NGOポータルサイトでした。ほとんどの団体がウェブサイトなどを持っているはずもなく、ポータルサイトより前に各団体のウェブサイトを作った方がいいんじゃないか?という現状だったことを思い出します。最近でこそ、ウェブを使ったさまざまな活動も出てきましたが、そうやって考えるとまだ10年も歴史を持たないんですよね。実は梅田さんの上の引用のあとに、茂木さんがこんなことを言っています。

日本にも反体制、ヒッピーっぽい人はいますが、その人たちは往々にして技術を持っていない。しいかも、うらめしそうな視点(ルサンチマン)を世界に対して持っている。意欲でも権威の側に負けていることが多い。(p.36)

 うーむ、とついつい苦笑してしまいます。負のパワーというか、ウェブの前向きなところにネガティヴで悲観主義的なところがどうしても多い日本のNPO/NGO/市民運動にはついていけないところがあるというのに渋々ながら頷いてしまいます。もっともっと世界に対して開いていき、訴え、アクションを起こしていかなければならない彼ら(=僕ら)にとって非常に有益なツールであるはずのウェブがうまく使えないのは、反面、ブログのトラックバックやコメント、はたまた2chなどに代表的な「社会」からのフィードバックに対してうまく向き合えないからかもしれません。自分たちのなかで、ネガティヴな現状への不満を訴え、自慰的な行為に着地させてしまう閉鎖性。しかし一方で、ウェブ世界と違い、直接的に「社会のしくみ」と向き合う必要のあるリアル世界との接点をうまく見いだせていないのかもしれません。梅田さんは「リアルとウェブの二つの別世界を創造的に行ったり来たりする生き方」ということを言ってました。

 さて、『フューチャリスト宣言』。もうひとつおもしろかったところは、ここ。

茂木:ウェブ社会の到来はアンダードッグ(負け犬)たちのチャンスだという感じがしている(中略)アンダードッグというか、マヴェリック(一匹狼)たちが、うまくネットを使えば幸せになれる、という可能性があるから、僕はネットの側に賭けたいと思っている。

梅田:僕もそこは一緒ですよ。まったく同感です。だって、リアルで満足度が高い人ほどネットに関心を持たない、若い人たちはその代表だけどリアルで満足度が低い人ほどネットに関心を持つ、という相関関係があるから。(以下、略)

 『AERA』5月28日号の巻頭に「デジタルプアの壁」というタイトルで、PCが使えないケータイのみの若者たちが社会的に「弱者」となっていることについて触れていたのですが、おなじ「ネット」の世界の中でもまた情報における貧富の格差というのが出ているわけですね。もはやリアルの満足度が低いから…とネットに強い関心を持ち、そこに幸せを見いだす人たちがいる一方で、結果的にデジタルデバイドなのか、ケータイで「今を生きる」しかない若者たちもいるわけで、リアルからウェブ・ネットを経由してまたつらいリアルに戻らざるを得ない現実もまたある。そして世界のほんの10数パーセントしかウェブ世界を生きられない現実もまたある。

 それでも僕は梅田さんたちと同様に、ウェブの世界をポジティヴに楽観的に夢を持って未来をみたいと思うし、その意味でこの本にも力づけられるわけですが、リアル社会で一人の市民として生きていく上で、同じような「フューチャリスト」であるためにどのように、リアルとウェブを創造的に行き来するかをもっと考えたいなと思うのです。